相談電話は、前夜にありました。
関西訛りを隠そうともせず、「ぼくら、あやしいもんちゃいますねん。いま、○○市にいてますんやけど、お金貸した人間の実家ですわ。ほんで、親におうたんですけど、本人いてませんねん。なんとかしたいおもーうて。」
・・・自分で怪しい者じゃないて・・それだけで充分怪しいと思うけど・・

でも、内容を要約すると、彼は大阪から、お金を貸した人を捜して、ここに来たらしいということ。実家には本人はいなくて、両親がいたが、両親は本人のしたことだからと、とりあわないということ。いつまでも、ここにいるわけにはいかないので、今夜はここに泊まって、朝一番に相談に行きたいということが判りました。・・・ま、いいでしょう・・話は聞いて見なければ判らないものです。
来る者は拒まず・・が、モットーなのですから・・

翌朝、9時と同時にチャイムの音。
Rさんが、応対にでて面談室に通している気配が伝わってきます。そして、お茶の準備に戻ったRさんの笑顔がひきっつています。。。
「ん・・?」
「三人きてますよ。それも、・・・・とっても・・・・」
濁した語尾には、「怪しい」と入るのか「怖い」とはいるのか・・・などと考えながら、面談準備をして、ノックして返事を待たずに入ります。
・・・・お、おぉぉぉ・・・・た、たしかに・・・

長いすに三人並んだその見かけは、正真証明「その筋」の方々であることを、その服装センス、
物腰が、語っています。
まず、向かって左の40歳前後は、白い七分袖のトレーナーにハーフパンツ。ブランドは、お決まりの、左向きのポインターの刺繍(Aで始まるブランドです。たしか、前に日本放送のアナウンサーで、いまはフリーの福○さんが、好んで着ていたように思います。。苦笑)。無理やり日焼けした顔にあご髭。茶色のサングラス。がばぁっと股を開いて座った姿は・・そのまま。。。
真ん中は、一応は渋めに見えるスーツを着ていますが、よーく見ると、チャコルグレィの地色の中に、赤のペンシルストライプが見えます。そして、お決まりの黒シャツに赤ネクタイ。そして、不似合いな上質のキャメル革のビジネスバック。軟派なロックシンガー崩れのような容貌のなかの小さな目が、これまた茶色のサングラスの奥で、ずるそうに、小心そうに時々光っています。これは、20代後半でしょうか。
右端は、このふたりに比べたら、少々異端ともいえる、着古したビジネススーツに、白ワイシャツに地味系ネクタイで、黒枠のめがねをかけています。一番年上で、50にも、それ以上にも見えます。

まずは、小池と名乗る、きのうの電話の人である、白トレーナーに名刺を渡します。
「じつはでんな。金貸してますのんや。それで、その相手探しに、ここまで来たんですが、親がだしよらしません。居場所も知ってるのに、言いよりませんねんや。しまいには、警察呼ぶ言いますから、望むところや、呼んでくれいいましても、呼びよらしませんのや。それで、どうにしこうにもしょうがのーて、お電話さしてもろーたんですわ。」
「失礼ですが、お宅様たちは、金融関係の方ですか?」
「いやいや。ちゃいます。ちゃいますよ。人に頼まれて、こうしてやってきてますねんや。ほら、この通り、借用書かてありますんや。」
小池氏が促すと、キザスーツが、たいそうなバックから、ぼろぼろになりかけの紙を二枚取り出しました。
動作は大層だけど、あのバッグの中は、もしかして、この二枚だけしか入ってないのかしら?
そう思うと、急に可笑しくなるのは、私の悪い癖です。そして、次になにか言いたくなっちゃうんですね。。(苦笑)
破れないように、そっと開いてみると、一応文具店で売っている形式の「借用書」ではありました。しかし、金利は記入してないし、保証人(連帯保証人ではありませんよ)欄には、実家の住所と電話番号だけしかなく、両親のどちらの氏名もかかれておりません。

「これ、金利が書かれていませんね。無効ですよ。」私が小池氏を見ると彼はあわてて
「いや、それは本人もしっとることですから」と、訳のわからぬ言い訳を並べます。
「保証人も、名前がないですよね。保証人さんに確認されました?」
「え。は、あ、あ、いやそれも、本人しっとることですから」
「それに、この借用書、債権者のお名前も記載されてないですよ。この方はどなたにお借りしたんでしょう?」
「いや、本人しっとることですから・・」

なに言ってるのこの人・・と、思わず笑いたくなる自分を抑えて
「この日付、三年前ですけど、この間、請求してました?」
「いや、本人しっとることですから」
・・・・・ほんとは、こいつは「オウム」か・・と、思いながら、同じ言葉を繰り返す、小池氏を見ていると、なんだか面白くなってきました。
「ご両親のお名前もなく、金利も記載なし。しかも、単なる保証人ですよね。連帯じゃなくて・・」
「いや、あの、本人(しってますから。。でしょ?とは、さすがに言えませんでした・・ほんとはすごく言いたかったんでけれど・・)」

「うちらは、取立てやとはちゃうんですわ。この女が仕事してた店のオーナーに借りた金で、うちらはそこの従業員ですねん。それで、社長に言われてきてますねん。」
「債権者はその社長さんですね。その方のお前は?」
「いや、それは・・(はい。はい。例のセリフですね。もう、耳にタコですよ・・)」

「僕らは、いつまでもここにいられませんから、なにか手かがりもって帰りたいんです。」
初めて、キザスーツが口を挟みました。
「いゃあ、なにも実家で、悪口言おうとか、近所にいやがらせしょうとか、そんなことおもーてまへん。そや。手かがりがほしいんですわ。」
小池氏もスーツに賛同しています。ビジネスさんは、黙ったままです。

「判りました。少しお待ちください。」
実は、面談の前にOリーダーには、彼らからの電話のことは話をしていました。
もちろん、そうなのかそうてないかは、逢ってみないと判らないことなので、お逢いしてからということになったのですが、やっぱり・・・と、いうことで、Oリーダーに経過を報告します。
苦笑いしながら、黙ってうなづくリーダーの意図を受けて、面談室に戻った私は、身を乗り出して、小池氏に向かいました。
「これはたいへん難しいですよ。彼女はまだ22さい。当時は19歳でしょ。しかも、ずっと風俗畑ですから、行方といっても、まず一筋縄ではいかない。それはご理解いただけますね。」
小池氏は、黙ってうなづきます。見積もり金額がいくらになるか、きっとどきどきして待っているのでしょう。

こういう時って、みんな同じ反応なので、嬉しくなっちゃいますね。(笑)
「見つかりますかいな?」
「判りません。だって風俗ですもの。。」
「そ、そうでんな。せやけど、なんか手がかりはつかめますやろな?」
「それは当然です」

私たちは、こういう依頼は受けてはいけないことになっています。
彼らはどう見ても、堅気の人ではありませんし、本人たちが否定すればするほどれっきとした「取立て屋」であることは、間違いありません。こういう公序良俗に反することについては、お受けしてはいけないことになっています。
例えば、ストーカー行為目的の所在調査なども、それに該当しますね。


私は、おもむろに見積書を取り出して、おもいっきりの数字を並べました。もちろん、彼らが取り立てる予定の何倍もの額です(笑)
にっこり笑ってそれを見せると、小池氏は、二、三度、私と見積書を見比べて「うーむ」と一言。
隣からそれを覗き見たスーツは、案外冷静な声で
「これだと、どのくらいの期間がかかりますか?」と、聞いてきます。

ん・・まずい。乗り気になられたら困るのよ。小池氏と同じ反応でいてほしいのに・・と、内心の動揺を隠して
「判りませんね。人をお探しすることですからね。期限切るのは難しいです」と、応えて見せます。確かに、その通りではあるのですが、しかし、現実には話を聞いてみれば、目安をえられることは多いのです。
じつは、わが社は、家出人をはじめ、人捜しということなら、全国一の発見率をずっと維持し続けている会社なのです。
しかし、誰にでも、それを使っていただこうとはおもっておりません。
仕事になればそれでよいなんて、そういうことは、会社の理念に反します。

昔、松田優作さんが演じていた、探偵や、土曜サスペンスみたいな探偵は、あくまで「探偵」であって、「調査会社」ではありません。
現実の社会生活のなかで、ほんとうに困ったときや、迷ったときに、なにがどうできるか、それを
相談するのに、決心と勇気が必要なことは、確かですが、もうひとつ「選択」も、欠かせないことであることは、断言できます。
一般的な会社(社会全体のいろいろな会社という意味で)よりも、更に、更に、高い理念をもっていなければ、この仕事に携わることはできないと、わが社は考えていますし、もちろん、その末端の私も、そうでなければならないと、今日は改めて感じました。

「考えさせてください。」
それまで、ずっと黙ったままのビジネスさんが、最後に言った一言をしおに、三人は帰っていきました。
考えなくていいです(苦笑)。
そういう裏ビジネスは、そちらで処理してください。私たちは、私たちが求められている相談者のために、ありたいと思います。
たとえば、その彼女のご両親が、娘の行方を捜したいとこられるのなら、それはもちろんご相談に応じます。どうぞ、いつでもお越しください。。。。
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by sala729 | 2005-06-08 11:12