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その調査の始まりは、年の瀬も押し迫った頃でした。
日曜日にかかってきた電話で、お逢いすると坂崎さん(35才・仮名)は、スポーツ刈りにダウンジャケットといういでたちで、一見大学生にも見えそうな雰囲気の方でした。

坂崎さんは、ある外郭団体の中間管理職なのだそうです。
その団体は、公務員さんの天下り団体で、当然そこの理事さん達の半分は、お役所の役職を定年退職、または早期退職された方ばかりで、構成されています。
トップの理事長さんは現在72才。今期をもってご勇退されるそうで翌4月には理事長選挙が
予定されています。

その理事のナンバー2の方は、この団体のたたき上げで、諸事に精通しており「切れ者」という
印象を与えておりましたが、そういう経歴の方に往々にしてよくある「倣岸」なタイプの方だったらしいです。
仮に中西氏としておきましょう。この中西氏には20年来の愛人が降りました。その愛人畑中は
事務畑で30年近く勤務していますが、中西氏の威光をいいことに、勝手し放題。
人事に口は出すわ、融資先の斡旋はするわ、自分の上司、同僚、部下の悪口、中傷言いたい放題・・なのだそうです。

もちろん、事務職といってもベテランですし、そういう立場の女性ですから、お茶汲み、ごみだし、コピー取りは当然一切しません。
残業も拒否(第一、彼女に残業命じる上司がおりません)
そのくせ、社内行事に自分が呼ばれないと、必ずあとで報復人事を考えているという「トンデモナイ事務員」なのです。

そして、皆はこの畑中の「中傷」を恐れ、彼女のご機嫌を伺いながら、日々すごしているという
テレビドラマのような話なのです。
当然、職場はくらーく澱んでいます。それは
三人並んだ制服姿の女性の中で、笑顔を見せているのは畑中だけで、他のふたりは視線が
下がっていることでも判ります。


こんな職場に耐えられないと、坂崎さんは言います。
「ましてや、来期から中西さんがトップに立つたら、畑中さんの態度は、ますます手がつけられなくなります。」

そーでしょうね。。。

「で、どーしたいと?」
坂崎さんの顔を覗き込むと、彼は決心したように深呼吸して続けます。

「このふたりの不倫の現場を撮っていただきたいんです。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・上司と部下の不倫現場を部下が撮りたいと・・・・・・・・・・・・。


私たちは警察でも、正義の味方でもありません。言うならば「依頼者さんの味方」です。
こうしたいと言うことを、どうやれば叶えられるかを考えるのが私の仕事です。
でも、だからと言って、なんでもかんでもそのまま受け入れられるかと言えば、そうではありません。やはり、ご事情はお聞きし、最低限違法でないこと。公序良俗に反しないものといった
選択や分別は必要かと思っております。


「それは、あなたのご要望ですか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・坂崎さんは黙っています・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しばらくの沈黙が流れました・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「いや、ホントのこと言います。」半分照れたような、迷ったような表情を押し隠して、続けます。
「これは、私の上司の命令です。その上司の名前は言えません。もちろん、私などが手の届かない立場の人です。でも、私もそうしていただくと、自分の職場が変わるのではないかと期待しています。今の職場は本当に、どこやらのアホ国と一緒で、いつも畑中の顔色みて仕事してるんです。課長も、次長も僕も、みんなもです。こんな環境でずっと仕事はできません。ましてや
これからずーっと続くかと思ったら・・・・上司の案に・・・乗りました。」
その目は真剣でした。


当然、お受けいたしました。(^^)

そして結果は、充分満足いただける写真を添えて、依頼者さんへの気配りも十二分に果たして
報告書は作成され、それを坂崎さんにお手渡ししたのが2月のはじめでした。

そして、その後の第一報が入ったのが一週間前です。

「Aさん、Aさん。坂崎です。先日はありがとうございました。例のあれ、コピーして全役員に配布しました。もちろん理事長にもです。そしたら、彼(中西氏・・坂崎さんは決して名前は言いません)逆上して、役員室で大暴れしまして、警備員が取り押さえる騒ぎになりました。」

切迫したように言いますが、どこかに「揶揄」がこめられているようなそんな響きが感じられます。

「それで、もう一度念押ししたいのですけど、嵌められた!オレを嵌めたヤツを絶対探し出してやるって彼は叫んでいるんです。そちらに問い合わせがくるかもしれません。」と、今度は妙に
情けない声です。

「それは大丈夫です。依頼者さんのお名前は、私を含めてごく一部しか知りません。お問い合わせには、私がでます。もちろん秘密は守ります。そんなご心配は無用です。」
「わかりました。ありがとうございます。」

坂崎さんは、依頼者の身元が中西氏にバレることを何よりも畏れています。
それは、調査開始からなんども何度も、お念仏のように唱えていました。


そして昨日のこと。。。
また、坂崎さんからです。。。。

「Aさん。彼は辞職しました。暴れたあと理事長に呼ばれたみたいです。懲戒免職よりも
退職にしたほうがと言われて、退職届書いたらしいんですけど、やっぱり怒りは凄まじいらしくて
離婚もしてますしね。まわりに、議員の力使っても、ヤクザの力使っても、オレのこと調べた奴ら、捜してやるって息巻いているようです。大丈夫ですかね?」

「大丈夫ですよ。だって、前の時だって、あれ以降なんのお問い合わせも入っていませんよ。
それに、議員さんだって、なんの肩書きもないただのおじさんのお願いは、聞かれないでしょうね。ほっほほ~」

「そ、そーですよね。いやぁすみません。くどくどと。・・・でもね。Aさん、あれからうちの職場
明るくなりましたよ。ホントに。よかったです。ありがとうございました。」
「いえいえ。で、彼女の方はもう退職したんですか?」

「いや、それが、彼女はまだ来てます。辞めるような気配はないですよ。彼女の旦那さんもこのこと知ったらしいんですけど、離婚もしませんし、なにもなかったような顔してきてます。
さすがに、偉そうにはしてませんけどね。」坂崎さんの語尾は笑いの中に消えたようです。


うーん。さすがに「女はつよし!」

中西氏は、地位も家庭も自分の権威も失い、畑中さんは何事もなかったかのように、日々を
送っている・・・でも、これが日本の現実ですよ。
不倫の現実なんです。・・・・・女性は強い。
男は・・・・・ しっかりしてよっ!!

そう背中を叩きたくなるような「顛末」でした。

by sala729 | 2006-03-15 12:57

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