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もう、男女雇用均等法なんて言葉は、人によっては使い古され、手垢のついた「死語」らしいのですが、こういう仕事に携わって、男と女の問題のひとつひとつを見つめていると、法律の近代化と、現実の意識改革の間には10年とはいわない開きがあることを見せ付けられます。

そう、ある意味、「男と女の感覚」は、少しも変わらず停滞したまま・・・なのかもしれません。それを時々、誰かが掻き回してそのときだけ広がる水紋が、水際の草にふれている・・・実際はその程度の改革なのかもしれませんね。

みはまさん(48才・仮名)は、美容室を経営して26年になります。
さすがに現役美容師さんだけあって、金髪の髪にジーンズのパンツスーツが良く似合っています。田舎といえども、地元では、なかなか有名な女性だそうです。
彼女は結婚して28年になる夫がいます。そうです、みはまさんは、結婚前に自宅を美容室に改装して若くしてオーナーになり、その後、夫と知り合い、結婚したのです。

そのころ、夫は地元の不動産会社の営業をしていて、結婚したときには、同僚たちから「いいよな~~髪結いの亭主は。」などと、羨望とやっかみの言葉を何度も投げかけられたそうです。
夫は、話術も巧みで、人あたりもよく、誰からも好かれる性格ではありましたが、仕事が終わって、パチンコを楽しんでいると「おっ。やっぱり髪結いの亭主はいいよなぁ。」と、知り合いから声をかけられ、車を買い換えれば「髪結いの・・」と、ことごとく言われ続けている生活を続けていたようです。

そんな中で、みはまさんは子供を二人産み、見習い弟子たちが、忙しいみはまさんに代わって家族の食事の用意もする・・という毎日でした。
夫は、独立して、自分で不動産の仕事をしはじめ、その傍ら小料理屋も開きました。
もちろん、開業資金はみはまさん名義の借金です。

しかし、この不動産業・・毎日、印で押したように出て行く(会社の所在地は自宅になっています)のに、利益が・・ない????商談相手を見たこともない・・・・
確定申告時をしているのかしていないのかも、みはまさんには判らず・・・・

一度、みはまさんは聞いてみたことがあるそうです。
「あなたの会社って儲かってるの?仕事してるの?」
そうすると、彼はぷぃと横を向いて「おーよ。そりゃあ、お前は、よう稼いどるけんのぉ。お前にはまけらーよ。」と、吐き捨てるように言ったそうです。

それを聞いて、もう私は二度とこんなことは言ってはいけないんだと思いました・・みはまさんは
その華やかな目元を伏せがちにして、つぶやきました。
そのうち、小料理屋の経営が立ち行かなくなって、居酒屋に商売替えしましたが、人件費がでないと、みはまさんが、お店を終えた後手伝っているそうです。
そして、相変わらず、彼の昼間の行動は・・・不明・・・・なのです。

みはまさんは、「もう10年(彼が独立して)も、我慢してきました。なにしててもいいかなって思いもあるんです。でも、やっぱり、なにしてるか知りたくて・・・それで・・」


それはそうでしょう。よく10年も、黙っていられたと思います。
ひとつには、みはまさんの彼への愛情。これは疑うべくもありません。
そして、もうひとつの大きな要素は、みはまさんの経済力ではないでしょうか?
彼がお金をいれずとも、みはまさんは子供を育て、学校に行かせ、生活費に困ることはありません。
また、それは彼がいままで、好きなことをしてこられたのも、そのおかげ・・・なのです。
この事実は曲げられません。
なのに、まだみはまさんは、迷っています。
過去に一度彼の言ったあの言葉に拘っているのです。
「お前のほうがよう稼いどるけん」・・・・それは呪文のようにみはまさんを縛ります。
そして、その言葉は彼自身をも縛ってきたのでしょう。
なにをしても、どうやっても「髪結いの亭主」と、やっかみとも嘲笑とも取れる周囲の人たちの自分への評価。
この中で、彼自身も、溺れかけていたのかもしれません。


いくら、法律が男女の均等を謳おうとも、それ以前に生きる人たちの意識を変えることはそうたやすくはありません。
法律は一日で制定できても、意識は一朝一夕でどうこうなるものではありません。

現実にみはまさんのように、女性の稼ぎが夫のそれを上回っていることで、自分に引け目を感じている女性は、まだまだ多くいます。
「私のほうが稼いでいるんだら・・・なんて絶対言えません。」と、彼女たちは言います。

でも、「オレの稼いだ金だろう」と、いきがる夫たちは少なくありません。引け目を感じる女たちの何倍もいます。
夫婦の形は様々で、周りがどうのこうの言うものではありませんが、今を生きる同性の女として、あとに続く女性たちに、「こんなことに負い目を感じることはないのよ。」と、
「彼らが、自分の才能と実力を、女たちに誇示するように、あなたたちも、もっと胸を張っていましょうよと・・・」そう言える先輩になりたいものだとおもいますし、そうなって欲しいものだとも思いますね。

そうしたら、みはまさんの夫が、かって感じたような、世間のいわれない「カゲ口」も、柳に風と
聞き流すことができるのではないてしょうか・・・

それにしても・・・・髪結いの亭主・・・なんて、誰が作った言葉なんでしょう・・・
きっと、江戸時代の髪結いの女性にふられた情けない戯作者が、腹立ち紛れに作ったに違いありません。
ほんとに・・・後世のことも考えてほしいですわよ・・・(苦笑)

by sala729 | 2005-08-23 13:40

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