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数日のうちに、なんだか「秋の日」になってしまったような、朝晩のすがしさは
熱帯夜を何度も越えた、今年のわたし達には嬉しいプレゼントですね。

そして秋深い夜を待ちかねて、昨夜行ってきました。

「悪人」

前評判があまりに高く、これはハードル高いぞと、心して見て参りました。
もっとも、原作は既に読んでいますので、作品の高い評価には、私も激しく同感することは
あれ、異議申し立ては毛頭ありません。

これはエンデングロールで判ったことですが、脚本には原作者の吉田修一氏も参加して
おり、そういえば道理で原作と乖離するところがなかったなと、納得しました。

さて内容ですが、深津絵里さん、さすがです。
こういう役をやらせたら、本当にぴったり嵌ります。
綺麗な顔立ちなのに、どこか寂しい。華やかな雰囲気があるのに、なぜか陰鬱な影を
感じさせる。その立ち居振る舞い、しぐさのひとつひとつが、「田舎に絡め取られた
自分をどうにもできない婚き遅れの女」を、これでもかと感じさせてくれます。


そして、もう一人。
この映画の中での重要な役柄の女の子。
主人公に殺されてしまう、どこの会社にもいそうな、人に併せたり、人におもねったり
人と一緒じゃなければ落ち着かないタイプの女の子。
仲間には入れるけど、ちよっと嫌われる女の子を好演していたのが満島ひかりさん。
若い子的には損な役回りですけれど、彼女は光ってましたよ。

なんだか、上ばっかり見ていた若い頃の自分を思い出させるような、そんな危ない
爪先立ちの人生を違う意味で見せてくれました。
そして、こういうこともあろうと納得させる演技力も光ましたね。
私は、こういう女優さん好きです。



樹木希林さんに至っては、もうそのまま「田舎のばあちゃん」と、家人が洩らしたほど
です。(余談ながら、家人はこの映画の舞台のひとつである、佐賀の出身です。ちなみに
祐一と光代が出会う、駅のシーンは佐賀駅の裏側方面でそうです。)
彼女の演技力は確かに、何もいうことはありませんが、その個性で時に、すべてを「樹木色」
に、染めてしまうほどの時もありますが、この映画に関してはラスト近くの、組員のアパート
に、乗り込むシーンはいらないかな・・と、私的には思います。
騙されるだけで十分です。本当の田舎のばあちゃんは、出したものをいくら惜しくても
組員のアパートまで取り返しに行こうなどとは思いません。


余貴美子さんも、シーンはわずかながら、その存在感は、やはりそこいらの女優さんの
比ではありません。
強くて、我侭で冷酷で身勝手な母(まるで、誰かさんのような・・と、つぶやく声が・・
おだまりっ!!)



それに比べて、男優さんたちは、今ひとつ、突っ込みが足りないかな・・と、やや
不満です。

主演の妻夫木君が、最初に出たときは「おぉっ。直江兼継も成長したか?」と、期待を
待たせてくれました。
何しろ、この歴史ファンの、大河ドラマファンの私に、毎回、毎回、バックを赤や黒に
そめて花びらヒラヒラさせて泣き演技の押し売りで、とうとうその年の大河ドラマを
諦めさせた男です。

その思いつめた目線の先で、息苦しい田舎の生活と、変えようのない日々の時間を
諦めきった男を、トランクス一枚で十分演じて見せてくれました。


ただ・・・この野生的な、でも自虐的な目つきが、どんどん優しくなるのです。
光代という、本当に愛した女性と巡りあって、そんな気持ちになることは判らないでは
ないのです。
でも、閉塞的な環境に育って、愛する人を知ったからして、その人以外のものに
そんなに優しいまなざしを、易々と投げかけられるか?と、問われれば、それはない
と、言わざるを得ませんね。
愛する人はいとおしい。でも、それを自分の周りにも感じられるようになるには、
こんな環境で育った人間には、それなりの時間が要ります。
それを、いとも易々と、愛を振舞える人間になっていくことが、妻夫木君を見ていると
判ってしまいます。

もうここで、誰もが「悪人は祐一じゃない」と、知ってしまいます。
まだ、映画は中盤なのに・・


そして、佳境に入ると、彼の「いい人度」は、ますます上がり、
最西端の灯台生活の中で、寒さに震える光代の唇も、頬もかさかさと音をたてるように
乾いていくのに、祐一の顎の下には無精ひげのあともなく(さすがに青々とした剃り跡は
なかったですが)逃亡生活の中での、脂ぎった生々しさも、垢じみた生活感もなく
ただ彼は、保護された交番から、傷だらけで逃げてきた光代を抱きしめるだけなのです。

・・・・・妻夫木君は、よくやっているとは思いますが、いまひとつ「ワル」には
踏み込めなかったかな・・というところですね。


そういえば、この映画の中で、今年の龍馬伝に出演している役者さんが二人。
一人は、三条実美役の、池内万作さん。
もちろん、ご存知でしょうが、伊丹十三氏の息子さんですね。
彼、いいですよ。最初のシーンのつかみは、彼が演じています。どういうシーンかは
見てのお楽しみ・・(笑)

そして、人斬り以蔵役の、佐藤健君。
正直、彼は何のための役柄かは判らんかったです。あえて考えるなら、若者の良心?
でも、ナイーブな、表情と動作は、十分に発揮していましたね。
岡田将生君の、ぶっ飛びお馬鹿ぶりも、なかなか見事でしたが、彼は告白にも出てましたね。
ノーテンキな、むやみに明るい教師役で。
彼は、確か「重力ピエロ」で、加瀬亮さんの、とび抜けた美形の弟役をしていましたが、
ああいう役も、もう一度見てみたいですね。




なんだか、役者評ばかりになってしまいましたが、最近の私は辛口評が多いのだそうです。

でも、なんだかんだと言いながら、仕事を終えて、映画館に向かい、氷抜きのコーラと
レギュラーサイズの塩味のポップコーン抱えて、指定座席に行くときは、ささやかな
幸せを感じます。

さて、次は「十三人の刺客」ですかね。

by sala729 | 2010-09-15 16:06

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