この仕事をしていると、とても「大きなお話」に出遭うことはよくあります。(^^)
まぁ、職種によっては鯨捕ったとか、象をハンティングしたとかもあるでしょうが、それと似ているようで似ていないのが、この類のお話でして・・(なんだか落語家さんみたいになってきましたが・・)

もともとは、そういう土地柄なのです。
話と腫れ物は大きければ大きいほど、弾けとぶと言ったか、言わないかというとんでもない土地柄で、男も女もいわゆる「ほら話」大好きという処ではあるのです(笑)
そこでのお話です。。。

西崎さんは代々続いた老舗の和菓子屋のご主人です。
彼自身がお店に出ることはなく、もちろん職人さんでもありません。
県下一・・とは言いませんが、それでも誰でもが知っているお店ではあります。
その西崎さんの中学の同級生に、大路という男がおります。
この男は、当時から所謂「ワル」で、少年院にも何度か出入りしています。そういう人間ですから
当時から西崎さんは大路とはなるべく付き合わないようにしていました。
それでも、何度かお金を巻き上げられたことはあるそうです。

その大路が突然、西崎さんを訪ねてきたのは三年前。
金ぴかのロレックスに、ベルサーチの派手派手ネクタイ。どうみても、堅気には見えません。
「ひさしぶりやのぉ。ええ社長になっとるやないかぁ」
あたりに響くようなだみ声で社長室に現れたときは、うわぁ、やな奴が・・・と、思ったそうです。
それでもお互いもう50すぎです。
上辺だけでも旧交を温めておかなければなりません。

「おぉ。ぬしによぉ、ええ話もってきてやったんじゃあ。なんちゅーても、竹馬の友じゃけんのぉ。」と、笑い飛ばして大路がもってきた話とは・・・。


大路は今、横浜に住む藤下という大物フィクサーの下で動いていると言います。
藤下は今は亡き大物政治家の影の秘書で、今も政財界に隠然たる力を持っていると言います。
その藤下のところに、僻地振興費に関する利権の話が舞い込んできたというのです。
東北地方に地域振興のすべてを傾ける一大プロジェクトで、これに一枚加われば、兆単位の儲け話になると力説するのです。
「ほーじゃけん、おまんにもこの話、乗せてやらねばのうとおもうとる訳よ。がっはは~」

こうして一時間、二時間とこの男の話を聞いていると、西崎さんのなかにも、むくむくと興味が湧いてきたのです。
もともとは「大きな話」の好きな土地柄に育った二人です。
億だの兆だのという話に、酔い痴れていったのも無理ありません。
そして、とうとう西崎さんはその話に、引き込まれてしまいました。
最初の投資は1000万でした。
でも、次にはもう5000万になり、一億を越えたのはすぐでした。
この一億が50倍になる。そしたら、藤下先生はもっと儲けさせてもらうから、お礼に西崎に屋敷を買うちゃると言うとるぞと、角砂糖に蜂蜜をかけたようなあま~い話も、そのときはすんなりと
受け入れられたそうです。

そして50億の中間配当がこの四月にあると言いながら、大路は忽然と姿を消したのです。
もちろん自宅に影も形もありません。携帯もつながりません。
親兄弟にも連絡が届いてません。仕事は・・はなっからしていません。


「わしゃあ、金はええんですよ。ただね、竹馬の友じゃなんじゃ言いながら、騙して逃げとるあの
男の腐れ根性が気にいらんとですよ。あやつをですね、探し出して、言うだけ言うちゃらんと気がすまんですよ。」
西崎さんは本当に悔しいのかどうかよく判りません。
穏やかな風貌がその性格の激しさを隠しているのか、どうもギラギラとした敵意が感じられないのです。
「あいつは○○組の組長とは少年院仲間じゃ言うちょります。自分はヤクザやないけど、それみたいなもんやと、偉そーに言うちょります。そやから、その筋から、なんぼでも金も鉄砲玉でも
集められるんじゃと、偉そうに言いよりましたが。それも、ほんまかどーか。」


冷静に聞いていると、そもそも子供の頃から「ワル」と言われていたことを知っていながら、なんで?と、思いますよね。ふつーは・・・。

それは西崎さんのその「大きな話」に乗りたかったということですよねぇ(苦笑)
そうなんです。ここは、そういう土地柄なんです。
「一億ばぁ、何にもならんやろ。そんなら、大路の話に乗っちゃってもええかなと思うたんですよ。がはは~~。あいつはねぇ、藤下がわしに家買うてくれたら、わいは藤下先生から貰うた、
ゴッホの「バリの娘」の絵をやろうわいと言いよるんですわぁ。」
「あの、それって、ゴッホじゃなくて、ゴーギャンですよね?」(^^;)
「はっはっは。。そーですらよ。わしが絵が好きだっちゅう話したら、そう言いよりますのんや。
ほんまに、ホラ話ばっかりの男ですわ。」



この話、ここまで聞くと、「ほんとの話」?って思われるでしょ?
でも、これ全部ほんとです。(^^)
なんだか、とても大きな話なのに、心の結び目がぽわんと緩くなるような話でしょ?
世の中にはまだまだ、自分の理解の範囲外の人間は多いということです。。。
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by sala729 | 2007-04-19 17:10 | Comments(5)

はっきりとした顔立ちで、正面を見据える目は魅力的でした。
「○○なんですけど、それがなにか?」と、挑戦的な会話は、先ごろ終了した人気ドラマの「きめ台詞」のようにクールでかっこいいです。

「夫は、開業医です。3年になります。ええ。もちろん義父母の援助と借金です。結婚と同時に
開業しましたから、勤務医の頃のことはよく判りませんが、結婚前と後とでは全く人が変わったようです。というより、内と外では・・・と、いうことですね。」
藍子さんは、ここでほーっと深い溜息をもらしました。

「私は、家事はもちろんですが、受付も事務も雑用もすべてこなしていました。OL経験がありますから、それはできなくはないんです。でも、それをしていることで、夫からねぎらいの言葉を
かけてもらったことは一度もないです。むしろ、夫は専業主婦を馬鹿にしてるんですね。なんの
感謝もありませんし、他の人が、えらいねぇ、よくやってるねぇなんて声かけてくれても、知らん顔してますよ。」

藍子さんは淡々と語りますが、そういう語りをすると話が余計冷たく響いて、この夫婦の隙間風がひゅうひゅうと音をたてているようです。

「お休みの日とかはなにしてらっしゃるの?」

「別に・・。それぞれが自分のことしてますね。それに、夫の両親が前に住んでいますので、よく
来ますし・・」
「ご両親とはうまくやってらっしゃるのね?」
「・・ええ。表面上は。私・・彼の家族とは判りあえないと思うんです。」
「・・と、言うと?」

「彼の父は、なんの仕事だか判りませんけど、人に会社を任せて、自分は遊び暮らしています。義母も同じです。彼はそういう両親を尊敬しているんです。人間は、あくせく働かないと
いけない種類と、自分は働かないで、人に働かせる種類とがある。父親はその後者で、人間は
そうならなくては嘘だ。そのために、若いうちに努力するんだと広言してはばかりません。
だから、自分も今働いておくんだと、診療時間も長くしていますし、診療が終わると、なんだか
怪しげな人たちと飲み歩いたりして人脈作っているんだそうです。
患者さんたちにもすごく優しいですよ。子供なんかとは気持ち悪いくらい猫なで声で接していますよ。そのくせ、自分の子供はいらないって・・・。
義父も、なんでもかんでも、お金、お金って、お金で換算する人なんです。自分が死んだら
藍子さん、あんた左団扇じゃ・・・って笑われたときは、ぞっとしました。」

本当に藍子さんはそのときも、ブルッっと体を震わせました。



「私はもう耐えられないんです。こんな仮面夫婦にも、彼の家族にも。・・・でも、今、離婚したら
私もう31だし、仕事がないし・・・。すぐには離婚する気はないんです。でも、準備しておかないといけないでしょ?」

・・・・・・・そーですね。という言葉を、私は飲み込みました。
藍子さんの言い分が判らないわけではありません。
でも、彼女が嫌いだというその義父母のおかげで、彼は若くて開業できたことは事実ですし、
それによって藍子さん自身も、なにがしかの恩恵はあったはずです。
例えば、新婚旅行にしても、エーゲ海だと言いますし、新婚早々自宅も医院も新築で、恵まれたスタートだったことは確かです。

それと、失礼な推測ですが、知り合いから紹介されたとき、彼がお医者様であったことも、藍子さんの心が揺らぐ要因のひとつだったのではありませんか?

それらを、総合的にみて、なお、彼や彼の両親のことを、こう悪し様に言えるでしょうか?


「彼が浮気していることを望んでいるです。その証拠を持って、これから私、離婚の準備すすめていきたいんです。三年あれば、専門学校だって行けますしね。・・・その間、彼のお金を使わせてもらわなくっちゃあ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これって、あなたの大キライな、拝金主義の彼と彼の両親のお金を使うということですよ・・・・


「明日、彼は女と逢います。メール見ましたから間違いないです。私が知らないと思って、何人もの女と付き合っているかも・・・。でも、それでいいんです。そしたら、証拠取りやすいでしょ?」

た、たしかに・・・・ごもっともです。・・・


「でも、ちゃんと証拠とるまでは、私も男性と逢っていたりしちゃ、まずいですよね?」

「当然です。それに、証拠取っていても、離婚しない限りは、だめですよ。もしも、それが彼に判ったら、反論されますよ。」
「そーですよね。彼、理論家だから。」
・・・・・・って、そーいう問題ではないのでは????????

「お願いしますね。私、それまで、仮面夫婦で頑張りますからっ。」

最初のクールな印象は、いつの間にか、溶けていましたが、その下から現れたのは、身勝手で
自己中な、「31才の、お・ん・な・の・こ」・・・・・としか思えないような、藍子さんの素顔でした。
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by sala729 | 2007-04-09 10:55 | Comments(0)