こんな時代に生きて・・と、ため息をつきながらも、にこにこと笑っているのは、やはり「お人柄」というものでしょうか。坂上さん(仮名)の白い頭には、臙脂色のバレッタがちょこんと乗っていました。
今朝、出社早々にかかってきた電話が、坂上さんでした。
「わたし、振りこみ詐欺というのか、なんていうのか・・」要領を得ない話ぶりに、高齢の方かなと、感じてお年をお伺いすると、69歳とのこと。今の時代、それほど高齢とも思えません。
切れ切れの記憶を、繕いながら話たことによりますと、第一の不運は、坂上さんは10年前に、当時通っていた編物教室の先生夫婦に泣くように頼まれて、夫に内緒で借金の保証人になってあげたことでした。

しかし、定石のように、その夫婦は自己破産してしまい、坂上さんには、その負債額がそのまま残りました。総額は1000万ちかくあります。夫に言うに言えず、坂上さんはなんとかしょうと考えました。そして、自転車操業をくり返しながら、なんとかしつづけていたのですが、ほんとに「魔がさした」・・と、いうのでしょうか。
去年たまたま見た本の広告ページに「お安い金利でお金貸します。方々に散らばった借金を一本化しましょう」という文字に惹かれました。そして、恐る恐るダイヤルしたのが、第二の転落のはじまりでした。

悪徳業者ですから、お金を借りるためには「保証金」だとか「手数料」だとかという名目で数回に分けて連絡があり、気がついたときは、合計92万ものお金を振り込んでいました。もともとは、50万の借り入れの申し込みに対して、要したお金なのです。
さすがに、振りこみ先の某信用金庫から、「ご確認ください」と、連絡がきたそうです。
そこで坂上さんは怖くなって、そのまま放置しておいたらしのですが、すると一ヶ月ほどして、
見知らぬ貸し金業者から、「お金貸します」と、ダイレクトメールが届きました。
人を疑うことを知らない坂上さんは、今度は向こうからきたのだからと・・安心してしまいました。
そして、やはり手数料を振り込んでしまったのです。

「ほんとに、ばかですから・・」微笑んで言う坂上さんは、幼女のようでもあります。
聞けば、ご主人は財閥系の会社に長年勤めて、今は定年退職しているそうです。長男も同じ会社に勤めています。次男も院生だそうです。
お父様は、戦前の警察官で、よき時代のお嬢様として育ったのかもしれません。

そして、とどめのように三軒目まで存在していました。
しかし、これこそ、明らかに、坂上さんの情報がその筋に流れている証拠です。
一番目の街金の情報が、次々に流れているのです。
これは、お金の貸し借り以上にたいへんなことです。こんな氏素性のきちんとした情報なら、のどから手が出るほど欲しいと思っている金融業者はどれほどいることでしょう。
私は、そちらのほうが、ずっと心配でした。にこにこと笑う坂上さんは、そんなことなど、全く気にならなかったようで、途中で、振りこみやめたら、どうなるか・・という心配しかなかったようです。

情報が流れるということが、どんなに怖いことなのか、時間をかけてゆっくりと説明すると、坂上さんの顔はみるみる曇ってていきました。お気の毒とは思いましたが、こういうお話はしておかなければ、世間知らずの人のよい奥様は、これからも簡単に騙されることを繰り返します。そして、傷ついて、ひとり落ち込んで行くのです。

なにかあったら必ず連絡するようにと、繰り返して、坂上さんに念を押して、会社に戻ると、久しぶりに出社したTキャラがなにやら、ひとりぶつぶつとつぶやいています。
ある種、季節病とはいいながら、廻りをかまわず、自分の世界のなかだけでバタバタと生きているTキャラはとても幸せな毎日を送っているのだなぁと思うと、そんな世界を許してあげている、私も含めたわが社のみなさんは、なんていい人だろうかと・・思いをあらたにした一日でした。
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by sala729 | 2005-04-05 23:27