憔悴した中野さんの頬から顎にかけては、みっちりと濃い髭が一面に浮かび上がり、着たままと思われるトレーナーの袖口は、薄汚れたわっかが浮き上がっていました。

妻の、奈津子さんが家を出て、僅か二日目というのに、もうずいぶんと「くたびれ」ています。
状況をお聞きすると・・・

・・・・・・・奈津子とは結婚してもうすぐ20年になります。子供は二人。
ふたりとも、サッカーをしていまして、なかなかの素質があります。それで、私学の高校に通わせています。これが、なかなかに授業料と、サッカーにお金がかかります。
遠征や、試合や、交流会なんかが目白押しで、それも二人分ともなれば、学費だけで毎月10万はかかるんですわ。

奈津子は家計のために、保険の外交をやってます。
と言っても、子供の送り迎えや、父兄会なんかがありますから、休みがちでそんなに給料貰っていたわけではないのです。
それでも、私だけの稼ぎではとても生活ができず、奈津子の仕事をあてにしていたのは事実です。
去年のことです。
奈津子が浮気していたことが判りました。相手は保険の客で11も年下の独身男です。
ええ。ぼくが携帯から見つけました。
奈津子を追及するとあっさりと認めました。

相手の名前も、住所も言いました。保険のお客だったとも言いました。
転勤でこちらに来ているので、相手は遊びかもしれないけど、あなたがしたいようにすればいいと、奈津子は全部、私に任せてくれましたので、私は一度その男に電話しました。
もちろん、男はとぼけてましたよ。
「中野だけど・・」というと「はァ?」みたいなかんじです。

じつはそのころ、私は仕事のことでオヤジとうまくいってなくて、毎晩飲み歩いていたんです。
奈津子は、それにもイライラしてたんでしょうね。
よく喧嘩もしました。あれも気が強いですから
「あんたはそうやって酒に逃げればいいけど、私はどうするんよ。子供もいるし、生活もあるし」と
よく叫んでいましたね。。。
それもあったんで、私は、奈津子の浮気を許したんです。
ほんとに、そのときは、悪かったと思ったんですよ。
これで、やり直そうと・・・・。

でも・・・できんかったんです。
いいえ。奈津子じゃありません。私です。
私が、できんかったんです。「浮気」したことを、忘れることができんかったんです。


まず、仕事に出る意欲がなくなりました。
そして、家族が出払ったら、そろそろと起き出して、飲み屋に向かう。
そして、奈津子の携帯に
「ホンマに仕事いっとんか?」
「今頃、また男と寝とんのか?」
「そこはどこや?ホテルか?」
と、メールを送り続けました。
もちろん、奈津子から「そんなはずないやないの!」とか、いつも返信がありましたが、それが
信じられない・・というより、今思えば否定してくれたら、安心・・みたいなところがあったんでしょうね。

私からは毎日何十通ものそんなメールがくるわ、私は仕事いかないわ。生活費に困るわと、奈津子も身動きとれなくなったんでしょうね。
いろんなところから借金していたようです。
犬猿の仲のオヤジの所にまで行ったらしいんですが、けんもホロホロに断られて、さすがに
気の強い奈津子もそのときは、泣いてましたわ。

それで゛も私は、奈津子にメールを送り続けました。
研修で一泊したあの夜もです。
「ホンマに仕事なんか?今頃男とホテルなんやろ?」
「そんなはずないやないの。仕事ってことは知ってるはずでしょ。」
そんなメールが5.6回続いて、突然返事がこなくなりました。
私はあせって
「やっぱり、男か!」
「いまどこでやってるんや!」とか打ち続けました。
でも、それっきり奈津子からはなんの返信も来ませんでした。
そして翌日、研修が終わって、他の人たちは駅に着きましたが、奈津子は帰って来ませんでした。会社の人には、実家に寄ると言っていたらしいのですが、もちろん実家には帰っていません。
そして、携帯の電源も切られています。



ながいため息を吐く、中野さんは、いっそう身を縮めているようでした。
後悔はしているのでしょう。
でも、字のごとく「後悔先に立たず」というやつですね。

浮気の原因の一端が自分にもあることを自覚して、それを許したのなら、それ以降の彼の行為は「最低」です。
それなら、むしろ許さないと、罵り、暴れたほうがよかったと、私は思いますし、奈津子さんも
きっとそうだったに違いないとも思います。

気の強い人間は、なかなか人を頼れません(ふむふむ、自分もそうだからよーく判るのね←
カゲの声)
全部、自分の中に溜め込んじゃうので、爆発したときまパワーには、何倍もの力が加わります。


「奈津子のこと、愛してるんですわ。私が悪いんです。あんなメール送らなかったら・・・」
うなだれる中野さんは殊勝に見えます。

「奈津子も浮気したこと全部言ってくれたんです。だから、許したのに・・・」
あらら・・・それは許してないって!・・・それって、檻なき牢獄に閉じ込めただけよ。しかも、「嫉妬」という、重たい鎖でかんじがらめにして・・・・。


「なんとか、探してください。奈津子がいないと、私は、私はだめなんです。。家はバラバラなんです。」
深々と頭を下げる中野さんを見ている、冷ややかな自分がいます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・奈津子さんが帰ってきて、この人は同じ過ちを繰り返さないだろうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そんな、私を職業意識が制します。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今の依頼者を信じてみよう・・・って、今月は優しい路線で行くんでしょっ!(^^)(^^)
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by sala729 | 2007-10-10 10:42 | Comments(0)

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