最初は「へんなおじーちゃん」だったのです。(まぁ、今でも充分へんですがぁ・・苦笑)

初め平岡さんはひとりでやってきました。今日みたいに朝からの雨が一時的にあがって、空気はたっぷりと水気を含んで、これ以上ないくらい重たく、どんよりとした昼がこようとしていた頃です。

70才とお聞きしていたのですが、なかなかに上背もあって豊かに真っ白の髪も、顎からもみあげに伸びた白い髭もなかなかの雰囲気で、とってもよく比喩するなら「三國連太郎」さんみたいな雰囲気すら感じました。・・・・・話さえしなれば・・・(--)

「息子が付きあっとるという、おなごがおるんじゃ。そのおなごの住んでるのがS町というんで
見てきたんじゃが、判らん。どーしても判らんのじゃ。」
座るなり、湿ったスラックスのポケットに手を入れて、小さな紙切れを出しました。


・・S町中川 鈴木一郎・・・・・・なんですかぁ??これ??


「おなごはここに、こん男と住んどるっちゅうんよ。そいで、さっきまでここいらを歩いてきたんやけど、さーっぱり判らんのよ。」
・・・・・・ここいらって言ったって・・字名だけとはいえ、何百という家があるのです。
番地も判らず、できすぎた氏名だけで、そう簡単に判るはずがありません。

「この方と住んでるということは、奥さんなのですか?」
「いんやっ。おなごは笹塚恵美子というんじゃ。」
・・・・・ぜんぜんちがうじゃないの・・・・・

「こどももおるっちゅうとった。息子に聞いてもなーんも言わんけんねぇ。わしにゃ判らんげに。そいやけど、おっかぁがのう、どーしてでも知りたいというんよ。」
「それはそうかもしれませんよ。嫁と姑となるわけて゜すから、奥様にとっては・・。それにしても、
鈴木一郎さんと住んでいる、笹塚恵美子さんって言うのも、解せない話ですよね。」

「そーじゃろ。けんど息子に聞いても、これ以上は言わんというてなにも答えんのよ。そいで
ワシも困ってのぉ。。。」

外見は「三國連太郎」風ですが、お話すれば、ただのちょっと風変わりなおじーちゃんかな?
と、思っていました。


しかし・・・ちょっとではなかったのです・・・

「ところでのぉ、戸籍にほれ、新平民て書いてあろーが・・」
・・・へ・・????・・・・・し、新平民って、あなたいつの時代の話してるのぉ???・・・・・・・

「そんなこと書いてないですよ。それは大日本国憲法で、現在の日本国憲法にはそんな記載は
ありません。」
「いんや。書いとろーが。書いとったでよ。ワシが見たときは・・」

それって(ワシが見たとき)いつの話よ??・このじーさま、案外若く見えるだけで、ホントは100才くらいかも・・・(--;)
「平岡さん、失礼ですがおいくつですか?」
「ワシは70才よ。おっかぁは64じゃけど痴呆でのぉ。ワシしか判りよらん・・と、思うとったら、急に、卓二(息子さん)の、嫁のことしらべにゃならんと言うてのぉ・・」

あらら・・奥様まだお若かったんだ・・・。それにしても64才で、認知症とはお気の毒な・・。

「そいで、ほんなら新平民もと、ワシもおもーたんじゃ。」

・・・・・だからぁ、新平民なんて、死語ですって。もうどこにも使われてないですし、存在も
しない言葉なんですってばっ・・・・。

ぼそぼそと繰り返す平岡さんに言葉を尽くして納得してもらうこと二時間。
はうぅぅ・・・・疲れた・・

しかし、結局その「笹塚恵美子」さんについての調査はすることに決まりました。
ただ、情報があまりに少ない・・住所も字まで。かろうじて判るのは、氏名と生年だけ。そして孤連れ・・・鈴木一郎という同居人・・・
まるで、パズルでしょ??(苦笑)

ところが判るんですよねぇ。これだけで・・(ちょっと自慢。得意げ~)

この、笹塚恵美子さんは「人妻」でした。
いいえ、鈴木一郎さんのではありません。笹塚健一さんの妻で、二人の子供がいます。
夫婦仲はあまりよくありません。。

さっするに、平岡さんの息子さんは恵美子さんと愛し合うようになったけれど、彼女は人の奥さんだった。でも、結婚したいと思っていた。
ぽろっとそれを父親に言ったら、父が乗り気になったので、彼女が人妻とバレたら困ると、
情報をあやふやにしていた・・・というところではないかと思うのです。
だからこそ、同居人の名前を「鈴木一郎」なんて、ふざけた名前にしていたのでしょう・・・

って、「鈴木一郎」って・・・もしかして、あの、あの天下の イチロー! のパクリ・・
あらら・・大胆なこと・・・(笑)

あの翌日、病院の帰りだと、もう一度事務所にいらした平岡さんの横には、黒白まばらの髪を
おかっぱ風に切りそろえた小さな奥様が、並んでいました。
奥様は一言も発せず、ただニコニコと平岡さんを見ていましたが、歩く姿はおぼつかなく、
大またの平岡さんのあとを、ヨチヨチとアヒルのように追っかけていました。
でも、それでも、「しらぺたい」と、主張した奥様は、やはり「母」です。

ふたりが隣町からバスを乗り継いで、ここまでくるのはさぞや大変だったでしょう。
それでも、ぶっきらぼうに奥様に手を差し出して、歩幅を合わせてあげている平岡さんが
やっぱり、ちょっと「三國連太郎」に見えたのは、私の気の迷いでしょうか(笑)
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by sala729 | 2006-07-07 12:43 | Comments(5)

Commented by 文房具や at 2006-07-08 01:10 x
このくらいのおじいちゃんなら沢山いますよ(笑)自分の思いこみでお話するし、人の話は聞かないけど、なぜか会話が成立しているんですよね(笑)私の職場のまわりもそんなお年寄りでイッパイですよ(>_<)でも、奥様のことは大切にしていらっしゃるご様子。私にも三國連太郎に見えましたよ~
Commented by てるプー at 2006-07-08 10:33 x
すごい調査力ですね!!たったそれだけの情報で身元が判明するなんて。。 随分ユニークなじいさまと認知症の奥さん・・・老いても呆けても 息子を思う母の意識は失わない、親の愛情を感じますね。いつまでも未熟なままの親達に 見習って欲しいものです。
Commented by sala729 at 2006-07-08 16:47
文房具や 様
偏屈だけど、憎めないっておじーちゃんですよね>笑

てるブー 様
いやぁ、それほどでも(と、謙遜しているつもりです)。>笑

ほんとです。親はいつまでたっても親・・なのですねぇ。

Commented by 一銭五厘 at 2006-07-08 22:26 x
新平民って何だ?!と思ってしまいました。
おじいちゃんの言動より、そっちに意識がいってしまいました。
いやー、初めて聞く言葉ですよ。知りませんでした。
Commented by sala729 at 2006-07-11 07:00
一銭五厘 様
もう「古語」でしょうね。きっと。(笑)
私も、本の中でしか知りませんし、お目にかかることもありません(--)

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