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夕暮れのダム湖は、春の光のなかに静かに佇んでいました(右の写真です)
有名な、ダム湖なのに、知名度ばかりが先行して、訪れる人はないようです。陽が落ちてしまうと、ライトアップされ黒い山肌に紫色の灯りが怪しげになまめいて、こちらの世界と、あちらの世界の出入り口ではないかと思えるような、そんな不思議な空間が広がります。

5年前に、向崎康彦(25才・仮名)は、そのダム湖を望む森林公園で、妻のゆいな(24才・仮名)と結ばれました。若い二人は、周囲の声を振り払って、結婚、出産と突き進みました。
こんな子供の少ない時代の次男である康彦は、望まれて、ゆいなの家の婿養子となり、ゆいなの、実家の川魚の養魚の仕事を手伝うはずでした。そのために、結婚してすぐに住んだ、町で
一番しゃれた、マンション風の町営住宅も出て、ゆいなの実家近くに転居し、地元の信用金庫も辞したとたん、ゆいなの父から

「今年は、台風でよーけ被害がでちょろう。オレらで、じゅーぶん事が足り取るがよ。」と、かるーく、後継を拒否され、かといって、帰る職場もなく、やむ得ず地元の小さな建設会社の作業員になったのでした。

それでも、根が真面目な、康彦は、ゆいなの手弁当で毎日、現場に向かい、残業を重ね、ゆいなと、二人の子供を大切に思ってきました。

ゆいなは、二人の子持ちとはいえ、まだ若く、上戸彩に似ていると言われる、綺麗な横顔を意識しており、康彦自身も、それを密かに自慢にしていたと言います。
そんな、ゆいなを、楽しみの少ない、このあたりの男たちがほうっておくはずもなく、もともと
そういう噂の多い、女性ではありました。

しかも、一人娘で、死ぬの生きると大騒ぎして結婚した相手を養子に迎えているのです。彼女には、我慢というものがだんだんに欠如していったようでした。
まず一番に手を出したのが、隣の高校生。
一年になったばかりの、16才です。その子の部屋にこもったまま、出ないという噂が立ち、
それは康彦より先に、彼の母親の耳に入りました。

ゆいなを追求すると、あっさりと事実を認め「もう、せんけん。」と、不貞腐れて横を向くと、
みんなが可愛いと賞賛する、横顔が康彦の目の前に迫り、それ以上はなにも言えなくなるのでした。

そんなことがあって舌の根も乾かぬうちに、今度嵌ったのが、お定まりの「出会い系サイト」。
ここで知り合った、槙原信吾は、38才ですが、身長は183センチ。製薬会社のSEです。
車はワーゲン。いつも、仕立てのよいスーツを着て、仕事柄、遊ぶことが多いので、女性の扱いも慣れています。
わがままで遊び好きの、ゆいなが、信吾に夢中になるのに時間はかかりませんでした。

まず子供ふたりを、近所の親戚に預けて、昼となく、夜となく、ゆいなは信吾に逢いに出かけました。もうこうなれば、康彦が帰ろうが、帰るまいがそんなことは、お構いなしです。
自分の気持ちのまま・・・行動します。

一応は、業務用スーパーに行くとか、市内まで行かんと子供服のいいのがないからとか、
理由は言いますが、親子四人で、毎日業務用スーパーに行く人がいるでしょうか?(苦笑)

それでも、康彦は、ゆいなを信じていました。いえ、もしかしたら、信じていたかったのかもしれません。出かけるゆいなから、携帯で
「子供らは、まさよちゃん(親戚)にあずけちょるから、帰りに連れてきてや。うちは、業務用スーパー行ってくるけん。」と、連絡が入ります。
すると、康彦さんは、残業を終えて、その親戚に寄って、子供二人をつれて自宅に帰るのです。
そして、ご飯を作り、お風呂を済ませ、二人を寝かしつけて、自分も眠りに入る頃、ゆいなは帰ってくるのです。

後で判ったことですが、ゆいなは、この親戚に、康彦が暴力ふるってお金を使うんで、自分はスナックにアルバイトに行くと言って子供を預けていました。だから、康彦が子供を迎えに行くと
親戚のまさよさんは冷たい目で彼を見ていたのです。

いくらなんでも、これはバレます。(苦笑)
双方の両親、兄弟、そして相手の男である信吾も呼んで、話し合いが行われました。
そこで、信吾には妻子があることも、康彦は知りました。
信吾は、みなの前で、ゆいなと別れますと、宣言しましたが、その夜すぐに、ゆいなを呼び出すと
「あの場ではああいったけど、長男が卒園したら、オレはすぐに離婚する」と、囁いたそうです。

そして翌日、ゆいなは康彦に向かって
「あんたの顔なんてみとーないっ。お金もなんもいらんから出て行って!」と、ヒステリックに叫びました。「ほんまにもぉ。埃くさいし、どろどろで汚いがよ。」と、作業服の康彦を手のひらで
ひらひらと追い払うような仕草です。

康彦は、実家に帰りました。

さぁ、それで怒ったのは「母」と「兄」でした。
あんな女は許せんっ!と、乗り気でない康彦を説き伏せ、証拠を取ることを無理やり納得させ
ました。母は、涙を抑えられません。

「あの女はですね、おにーちゃん助けてって、オレに何度も電話してくるがです。康彦が怒ちょるとか、口きいてくれんとか、泣くがですよ。オレはそのたび、こいつ(康彦)を叱りつけとったがです。そいでも、こいつ(康彦)もなにも言わんがですよ。アホが・・」
兄は、相談員に話続けます。隣で、無口な康彦は、ぱさぱさに乾いた茶髪を指でかきあげて俯いています。
どちらかというと、男性としては小柄で、日焼けが貼りついた顔は、作業着の埃に似合っていますが、これも、もとを糾せば、ゆいなのわがままからきたことではないですか?。
それに、男の作業着というのは、そう悪いものではないです。(これ、私見ですが。。^^)


でも、康彦はまだ、ゆいなを愛しています。
調査費用は、母が出しました。康彦にお金がなかったことも、もちろんですが、康彦自身が、
心のどこかで、真実を避けているのです。
今は調査期間の真っ最中ですが、ゆいなからはよくメールが入るそうです。
「車、修理してるがよ。どこそこまで送ってって。」
「あした、まさよちゃんに頼めんがよ。子供、見よって。」
「携帯のお金、払えんがよ。もってきて。」
「義母さんに子供に電話せんでって言うといて。うざいがよ。」

まぁ、なんと・・・と、思えるようなものが、次々と入ってきます。
康彦はそのメールをこっそりと、読み返しては、ゆいなのために、いろいろと動いています。


兄や母との話の区切りを見計らって、彼はベランダに出ました。ここは、かっては彼とゆいなも住んでいた町営マンションです。彼らは二階でした。兄夫婦は三階に住んでいます。
ベランダの手摺に身を任せて、煙草に火をつけると、ゆっくりとくゆらせながら、彼は独り言のように、そっとつぶやきました。
「証拠とって、どうするかはほんとはまだ決めちょらん。許すかもしれんとも思うちょる。じゃけど
、やっぱり本当のことは、知りたいがよ。」

真っ暗な闇の正面に、妖しい紫色の光をちりばめて、ダムの水門が浮かび上がってきます。
あの上には、たしか芝で刈り込んだ、名前の入った小さな公園があって、春には土筆が
生えてたよなぁ・・・。形のいびつな、ゆいなの握り飯が、妙に旨くて、「料理は下手糞じゃなぁ」って、からかったら、思いっきり膨れてたけど、あれも可愛かったな・・。
康彦は、そんなことを思い出しながら、指の間に挟んだ煙草の灰がコンクリートの床に落ちていくのをみつめていました。


・・・・・・・・今日は、ちょっと自分(私)から離して書いてみました(^^;)・・・・・・・・おそまつ。

by sala729 | 2006-03-25 11:13

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