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「如月は、いかに過ごすか、時たらず」と、思わずへたくそな句のひとつもひねりたくなるような(^^;;)勢いで、日々が過ぎていきます。
仕事というくくりの中では、同じであっても、お預かりする事柄はどれを取っても、ひとつとして同じものはなく、千の人には千の思いという、言い古された言葉が、思い起こされます。

傍目には、羨ましいほどの環境に思える方が、実は「火の車」なんてことは、この仕事していましたら、日常茶飯事で、とりたてて・・と、言うほどのことでもないのですが、それでもこのケースは、あまりのギャップに、唖然とするばかりでした。

麻理さん(39才・仮名)の、夫は国立大学医学部の講師で、31才で同期中一番に講師になったという、文句なしのエリートでした。招聘されて、今の大学に来ましたが、いつかは地元の大学に帰ることは決まっていたようです。ふたりの間には10才の長男がおり、国立大学の付属小学校に通っています。
麻理さんは専業主婦ですが、きちんとメークして、対峙する表情はきりりと知的に見えました。

この絵に描いたような家族が借金だらけだと、誰が信じるでしょうか。。。

麻理さんは、知的な眉を顰めながら、しゃべりはじめました。

主人は、両親が年老いて産まれた一人っ子です。成績も優秀でしたから、父も母も主人には何も言いません。主人の言うとおりにしていればいい・・と、そう信じています。
そして、主人はなんでも自分の思うままの人生をすごしてきました。

7年前、こちらに来たときも、そんなにお給料いただいているわけではないのですが、医局のみんなをひきつれてのみに行く。当然自分が支払います。
学会は自費です。三泊、四泊と平気です。講演会も断りません。でも、講演会って言っても、交通費や食事代は別なんです。講演料に含まれていますから、よっぽど高額でないと赤字なんです。それでも、先生!先生って持ち上げられるのが彼は好きですから、断りません。
それや、これやが積もり積もって、生活費が苦しくなりました。そして、生活費をあちこちから借りるようになりました。

彼は、我慢というものを忘れてきたような人間で、したいこと。欲しいことを抑制できません。
趣味は、ゲームとプロレス。新作はもちろんゲット。自宅にはゲームが堆く詰まれ、子供と一緒に時間無制限で対戦し続けます。子供も親公認ですから、いつまでもし続けます。
そして、プロレスも同じです。スカイパーフェクトTVで、ずーーっと見続けているのです。

(時々、奇声をあげながら、ゲームと、同時進行・・という第三者的に見ればなんとも
奇妙な家族団らん・・ではありますね。)
ちなみに通勤スタイルは、胸にプロレスロゴが大きく入った、フード付きパーカーだそうです。(苦笑)


彼は車も好きで「これ」と言えば、もうどうしても買わずにはいられないのです。今は時価800万のベンツに乗っています。私が、生活が苦しいので売りましょうと言っても、今ではローンの方が高くて、売り飛ばしたら、次の車が買えません。

子供が幼稚園や学校に行くのに、私が送り迎えしていますが、彼はそれが気に入らず、勤め先まで毎日タクシーを使って、それだけで月に30万を越えたこともありました。
それで、窮余の策として、子供の学校にも近く、公共の交通の便のよい今のマンションに引越したのですが、その引越し費用が200万。それもなくて、わたしの両親に借りました。
それまでも、何度も借金しており、今では1500万くらいになっています。二人の老後の費用ですから、返さなければならないのですが、彼は、一切知らんと言い切ります。

そんな彼が一方的に
「自分は三月でF県に帰る。ぼくの荷物は全部、実家に送っておいて。君と子供のは君の実家に、送っておくようにね。」と、言い放ちました。
「そんな・・」
私の抗議に耳を貸すような人ではなく、私は彼の実家に事の次第を打ち明けました。すると
姑は「あの子がそうしてというなら、そうして頂戴。貴方たちは帰らなくていいわ。」と、冷たく
言われました。


麻理さんの話には、救いがありません。
なぜ、こんなになるまで放って置いたのか。自分の実家に甘えるばかりで、なんとかしょうと
しなかったのか・・・。


麻理さんは続けます。

彼には女がいます。たぶん医局の女医さんです。私に内緒で、ふたりで留学も考えている
ようです。私、申し込み用紙見ました。子供が成人するまで離婚はしたくないのです。でも、このままなら、彼は女とどこかへ行ってしまうんです。


麻理さんは更に、彼がどこへ行こうとも、もうどうでもいい。だけど生活費だけは貰わなければ生活ができないと訴えます。


それにしても、お聞きすれば彼の年収は1300万。他に個別にアルバイトをしている個人病院の収入があります。それだけのものがあって親子三人がまともに食べていけないなんて・・・。
信じられますか???

でも、麻理さんの話に嘘はないのです。
調査をするにも、お金がないと、分割を申してで、ローン審査を通したところ、一銭も通らなかったという事実が借金だらけの今の生活を証明しています。

それでも、夫との生活をゼロにしたくないという麻理さん。それは医者の妻という自分を愛しているからでしょうか?
医者という立場がなければ「ただのプロレスオタク」にすぎない、絶対にもてそうにないこの夫に
ここまで執着するのは、「医者」と「講師」という肩書きでしょうか?

あまりに失礼なのでそこまではお聞きできなかったのですが、ローンも通らず「一円のあてもない」と、戸惑う麻理さんに、私のしてあげられることは・・みつかりません。

席を立つ麻理さんの足元は、グッチの靴が・・・・と、そのまま視線を上げると
そのパンツの丈の異常な短さ・・・・女性の方なら、よくお判りでしょうが、パンツの丈は大事です。それひとつで全体の印象が、がらりと変わります。
麻理さんのグレーのパンツはくるぶしの上で、ちょん切られたように短く、黒いタイツが覗いていました。
持ち物や、メークの印象から比べたら、とても「ちぐはぐ」な印象です。

不思議なもので、そう思ったら、麻理さんの全体の印象がとても、ぼんやりとしてきて、最初の
印象はとうに消えてしまっていました。

この女性はこれからどうするのだろう・・・漠然とした思いを封じ込めて、残された如月の時間を
大切に、私は帰社することにしました。

ほんとうに、「人は見かけではわからない。」・・・・そんな言葉をしみじみと噛み締めた昼下がりです。

by sala729 | 2006-02-24 13:10

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