朝食の仕度をしていると、テレビでニュースが流れていました。
見るとなく、聞くとなくではありましたが、同じ部屋の中です。
音は当然耳にも入ります。

内容は、あの神戸連続殺傷事件の酒鬼薔薇君(こう呼んでいいのか
どうかは判りませんが、文中の便宜上とお許しください。酒鬼クンと
呼ばせていただきます)が、自署した本が上梓されたというものでした。

このニュースは前日、わたくしも耳目にはしておりましので、
「正直に言うなら読みたいよね。」「そりゃそうやろ。本読む人間
ならこれ読まな嘘やろ。」なんて会話を今朝も家人としたばかりでした。

でも、改めてニュースになってみると、はたと考えたのです。

わたくしは一人の部外者・・はっきり言えば、野次馬としての興味で
読みたい。とても読みたい。
毎月、分不相応に本を買い漁り、読み散らかすわたくしが、これに
飛びつかないわけはない・・と、本人も思います。


でも、遺族の方からすれば、それはどうなのだろうか。
殺害された女児のお母様は、ずいぶん前から酒鬼クンが心境的に成長
したと評価されておりました。
これはなかなかにできることではありません。
と言うか、こんなに冷静に静かに心境をお話できる人間性には、ただただ
感服するだけです。

また、男児のお父様は、ずっと長い間酒鬼クンからの手紙を
公開せず、コメントも出されておりませんでしたが、最近になって
「彼の心境に変化の兆しがみられるような気がする」と、少し
心の鎖が緩まったのかと思わせるようなコメントを出されておりました。

そんな中での突然の独白本です。
もちろん彼の声で、事件の真実や彼の心境、変遷を聞きたいと希求する
人間は決して少なくはないでしょう。

これまで、何人もの人たちが、関連するいろいろな本を出されておりますが
そのどれよりも、意義のあることなのかもしれません。


でも、男児のお父様は、この出版に対して、はっきりと不快感を
示していらっしゃいます。
お父様の今までの今までの言動から察するに、今回の上梓を遺族、
少なくともこのお父様はご存知なかったのではないか・・

現に、そういうコメントを出されていましたね。

わたくしも、それはないんじゃないかと思います。
毎年送られてくる、愛する息子を無残に手にかけた男からの手紙を
読み続け、やっとその中に受け入れられるかもしれない萌芽を
見たと思ったその矢先、自分の知らないところで、愛息の死が
こともあろうに加害者の側からだけから語られる・・・・こんな
理不尽があるでしょうか。

酒鬼クンがどんなに反省しょうと、懺悔しょうと、いいえ自分の命を
捧げようと、手にかけた命は還らないのです。
自分の気持ちを打ち明けて、これからの世の中に何か役立てたいと
本当に思うなら、ご遺族のみなさんのご理解と賛同を得てからに
すべきでしたね。

これが得られないのなら、世間に問うのではなく、研究機関のみに
自らの心境を文章や肉声にして、後世に役立ててもらうべきでした。

この本の上梓には、出版社のあざとい経営戦略がぷんぷん臭ってきます。
酒鬼クンも、もしかしたらこの戦略に嵌ってしまったのかもしれません。

そしてかく言うわたくしも、まんまと嵌って、一抹の後ろめたさを
興味が覆い隠して、この本を手にするところでした。


家人は
「君が買わなくても、これは多くの人が買うよ。きっと。ボクみたいに
普段活字に縁のない人間でも読みたいと思うもの。」と言いますが、
わたくしはやっぱり、買うのはためらいます。



この被害者の女児と男児のお母様とお父様は、それぞれに自署のご本を
出されています。
これは読みました。でも、さすがにすぐには手に出来ず、随分たってから
読みました。
わが子を「殺される」という、想像もつかない理不尽に対して、人間は
どう立ち向かうのかと思っておりましたが、人はそんなに
強くはありませんでした。
そこには理不尽に立ち向かう強い姿ではなく、愛する者を突然に奪われた
怖ろしい暴力の前に、いつまでも立ち直れないままの、哀しい親の
姿があっただけです。


それを読んでいるだけに、酒鬼クンからだけの、一方的心情告白記(読んで
いませんのでそうでないかもしれませんが、今のわたくしにはそうとしか
思えない)を、自分の興味だけで購入しょうとは思えないのです。

わたくしごときが、ここでこんな風に言って、何が変わるなどとは思って
おりませんが、例え日本中のみなさんがこの本を手にしても、わたくしは
すまいと今、決めました。

今朝までは、ためらいだったものが、自分の心境をここに認めていると
はっきりとしてきました。
蟷螂の斧であろうと、ひとりよがりの納得と言われようと、わたくしは
子を亡くした親が、辛いと思うことを自分の楽しみの代償にしょうとは
思いません。

こんなわたくしを、家人は「ややこしい女やな」と、嘆息しながら呟き
ますが、はい。それで結構です。
ややこしくて結構。なんの力にならなくても、効果をえられなくても、
わたくしは、わたくしの様に生きたいのです。
[PR]

by sala729 | 2015-06-11 11:54 | Comments(3)

Commented by nakatsukasadiary at 2015-07-01 11:49
ご無沙汰です。
東京の啓文堂書店では販売自粛し、店舗の本を回収するようです。
「遺族の心情に配慮した」とのこと。
Commented by sala729 at 2015-07-02 17:17
お久しぶりです。体調はいかがですか?
ブログはいつも拝見しております。啓文堂書店さんの判断は
ご立派だと思います。
お金儲けだとしか思えない某出版社に、この事実を突き詰めて
やりたいぐらいです。
そして、あさはかにも、図書館でこの本を読もうとしている人間もいるとか。
人は様々ですが、わたくしは自分に恥じない生き様をしたいです。
Commented by nakatsukasadiary at 2015-07-03 12:17
退院して1年3ヶ月ほど経過、今は3ヶ月に一度の経過観察通院です。部分寛解の段階ですが、肺転移疑惑検査結果が今年1月に報告され、それに主治医は否定見解示されましたが心配なことです。癌は厄介ですね、治療後5年は安心できないと言われてます。放射線治療は許容限度MAXまで行いましたので、もうできません。摘出手術困難な部位ですので、再発しないのを祈るばかり。転移も無いことを願うばかり。そんなところです。放射線治療による唾液腺機能障害・難聴が今も続いており、美味しく食事できない会話もスムースに行かない、それがかなりのストレスです。難聴で常に静かに感じ過ごせるのは悪くないですが、外では危険でもありますね… ついつい長くなりました。まあ、せわあない、で過ごしてます。
「絶歌」出版の問題、昨日のクローズアップ現代でも取り上げてました。明石市の図書館でも遺族の心情に配慮、その本は置かないことを決定したと。あるドキュメンタリー映画監督は、「どんなことでも知る権利ある。辛くても向き合わなくては」と主張してましたが、そこではないでしょう。売れていて増刷したとか、もう出版暴力です。

<< 母になった夜    運動会。バンザイ!! >>